合間縫う腑に落ちない音楽

肩透かしのカタストロフィは続く

タレイア・クァルテット@安養院

とても満足したコンサートだったので、あえて言葉にするのも億劫だなと思ったけど、悲しいことに記憶というものは薄れてしまい、いつしか消えてしまうものなので、備忘録として。

プロジェクトQ・第16章のバルトーク弦楽四重奏曲シリーズ(2019年2月24日)で初めて聴いて(第5番)、ダントツの迫力で圧倒されてから追っかけているタレイア・クァルテットの演奏会へ。メンバーは20代の女性4人。

会場の安養院は板橋の東新町にあるべらぼうにでかいお寺で、自転車で何度も通りがかったことがあったが、こんなホールがあるとは知らなかった。キンキンキラキラだし、響きも結構いい。

プログラムはヘビーな3曲。住職がクラウドファンディングでスポンサーになったために実現したコンサートとのことだが、住職の趣味の高さを反映しているとしたら感謝しなければいけない。

1曲目はベートーヴェンのセリオーソ。彼女たちの生演奏で聴くと、あらためて難解で変な曲だなあと思った。決して悪い意味ではない。ベテランのカルテットだと、分裂的な曲の異常な感じを際立たせないように自然と丸めてしまうのだ。

1楽章のイントロの激しいユニゾンとか、短調かと思ったら長調になったとか、短調から唐突に長調になったりとか、これまで録音を聴いていてあまり感じなかった違和感がビンビンと伝わってくる。

重ねて書くが、決して悪いことではなくて、ああこの曲のことを自分は全然分かってなかったんだな、実はまだ解けていない謎がたくさんあったんだなということを気づかせてもらった。この歳で伸びしろしかない(笑)

ベートーヴェンが「一般聴衆に聴いてもらおうとは思っていない」と知人宛の手紙で明かした曲だ。彼女たちにとっても、謎がまだ残されたままの演奏だったのかもしれないけれど、まだ20代でこの曲に挑戦しようと考えたのはたくましいし、ぜひ常設のカルテットとして、今後の代表的なレパートリーにして欲しいと思った。

そのときにも、やっぱりこの違和感、異常なただならぬ感じというのは、あえて残しておいてくれた方がいいのかもと思った。もちろん、ベートーヴェンの後期の四重奏曲は難曲揃いなので、セリオーソだけに限る必要はないけど。

2曲目はバルトークの3番。この曲は全楽章休みなしに、かなりの緊張を要するすさまじい曲だけど、もうレパートリーになっていると思う。素晴らしい。チェロの石崎美雨さん、超絶技巧で大奮闘!

セリオーソの後にこれはしんどかったと思うけど、ベートーヴェンとバルトークのカルテットを一緒に聴くと、ぜいたくなセットだなと満たされた気分になった(初めて彼女たちの演奏を聴いたバルトークの5番の最終楽章の唐突な長調――あれはベートーヴェンの運命の勝利の行進曲のパロディだと思う――とセリオーソの親和性を感じた)。

20分の休憩後、モーツァルトの15番。珍しい短調の曲で、モーツァルトといっても決して軽い曲ではない。

タレイアの魅力はそれぞれのプレイヤーが個性と存在感をもって主張するところではあるけれども、モーツァルトではやっぱり1stヴァイオリンの山田香子さんを立てるバランスにした方がいいのかな、と1楽章は思った。

でも楽章が進むにつれて、山田さんが輝きをもって前に出てきてバランスがよくなり、この曲もかなり練って仕上げているなと聴き入ってしまった。

最終楽章の変奏曲は見事で、ヴィオラの渡部咲耶さんと2ndヴァイオリンの二村裕美さんの安定した頼もしさが発揮されていた。

特に、普段は山田さんや石崎さんに寄り添う形で決して出しゃばらない二村さんが弾く速いパッセージが非常に美しく、これからはもっと積極的に前に出て聴かせて欲しいなと思った。

プロジェクトQの後にNHKに出演したりして、タレイア・クァルテットは同世代では頭ひとつ抜けてるけど、ぜひもっと世界に向けて発信してほしいと思う。

そのためには――たとえばバルトークの弦楽四重奏曲の全曲録音をするのはどうだろうか。それをYouTubeで配信するとか。

どれだけすごいことをやっているかは、ストリーミング(音)だけでは分かりにくいので、ぜひ動画で。……うーん、既存の動画がもっと再生されていてもいいと思うんだけど。やっぱり魅力はライブなのかな。

アンコールは、シベリウスのアンダンテ・フェスティーヴォ。

これから結婚とか出産とかのライフイベントで、演奏活動が中断するかもしれないけれど、諸々乗り越えながら、中年になっても続けて欲しいし、自分も生きている限り聴いていたい。