合間縫う腑に落ちない音楽

肩透かしのカタストロフィは続く

ニュースなどしょせんは「情報消費の娯楽」に過ぎない

 音声メディアVoicyでパーソナリティをしている亀松太郎さんと対談させていただきました。テーマは「ネットメディアのキャリアとは?」。あらためて聴いてみると僕はほんと話がヘタで、駄目だなあと反省しています。頭の回転が悪いんでしょうね。

おわびに私が話した部分だけですが要旨をメモしました。ご一読いただき、興味がわきましたらぜひVoicyを聴いてみてください。今回はインタビューではなく対談なので、亀松さんの興味深いお話もたくさん聴けますよ!

慣れた世界の再生産は淀む

大きな問題は、ネットメディアの中だけで同じノウハウで生き残っていこうとすると、どうしても自家中毒症状(自分の体内で作られた毒物のために起こる中毒)になってしまいがちで、そういうものに感覚が染まると人は足抜けできなくなってしまうし、スキルも陳腐化していっちゃう。

僕と同じバブル世代がテレビ局に入って「僕らが好きだったあのころのフジテレビ」を再生産しようとして大コケするのを目の当たりにしてきた。テレビが一番クリエイティブで面白かったのは、映画や演劇などの異分野ではみ出した人たちが当時の新しいフィールドであるテレビを作っていた時代だったのではないかと考えてしまう。

文化人類学者の山口昌男(1931-2013)が提唱した「中心と周縁」という理論がある。それはある時代の中心から排除されて周りの縁にいた人たちが、次世代に新しい価値観を持ち込んで次の時代の中心に取って代わるという考え方である。

www2.nhk.or.jp

僕や亀松さんがいたJ-CASTニュースも、紙メディアを知り尽くした人たちが紙で培ったノウハウを持ちつつ、ネットを利用して紙の弱点をうまく突いたところに面白さやスリルがあった。

そこに亀松さんのような(編集者の)実務経験のない方が入ってベテランと手を組んだことによって、新しいメディアの地平が切り拓かれた。そうやって前の世界で落ちこぼれた人や排除された人たちが、次世代で新しい世界を作っていく。そういう世界に魅力を感じて僕は仕事をしてきた。

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クソ記事で判断力の弱い読者を集める悪循環

ネットメディアの定番的なやり方は、ネットで起こった火種を拾ってきて、そこに大げさなヘッドライン(見出し)を付け、人が大勢集まるポータルなどの場にいち早くさらすことで大きな火を起こし、炎上させてPVを集めるものである。

しかしそこで得た成功を貴重なスキルだと勘違いすると危ない。ネットメディアの編集者はもはや誰もができる仕事になり、メディアが乱立し「名ばかり編集長」が溢れている。すでにその手法はコモディティ化している。

そのような過当競争の中で、PVのために手段を選ばないメディアが増えすぎたせいで、広告の質が低下して単価の低いクリックの奪い合いとなり、さらにカネをかけずにPVを追うために記事の質が低下する、という悪循環になっている。

くだらない記事で判断力の弱い読者を集め、彼らにおかしなバナーを踏ませて、ダイエットだのほうれい線だのといった怪しげで、ときには詐欺的とも疑われる業者のサービスに送って糊口をしのいでいる。こんなことをしていて情けなくないのだろうか(おそらくこのモデルには限界が訪れる)。

さらにいえば、こういった仕事を通じて身につけたスキルをベースにスキルアップとかキャリアアップなんて考えられるのだろうか。もう少し自分たちのやってることを引いて考えた方がいいんじゃないか、と思うことがある。

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これはネットメディアだけでなく、ニュースそのものの問題点でもある。たとえば紙の新聞記者の人たちは、自分たちのやっていることをジャーナリズムだ反権力だ大臣のクビを獲ったなどと言っていて、それは民主主義を機能させるために欠かせない役割とかいうけれど、大半は大衆のエンタメとして情報消費されているに過ぎない。

ニュースに対する冷めた眼があるので、そういう仕事に一時関わることの(無責任な)楽しさを認めはするけれど、新卒入社から定年までひたすらニュースに関わっていくような働き方は個人的には考えられないし、もっと役立つメディアのあり方を考えながら仕事をしているところだ。

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「バズったら負け」の世界もある

社会的な意義のある情報について考えるときに、ニュースの中にも社会問題を形成し政策を誘導していくようなものがあるけれど、あえて対照的なものを考えると「ニュースではないコンテンツ」というあり方もあるだろう。

それは特にネット時代に可能になったことだが、検索エンジン経由で届ける「課題解決型」のコンテンツである。前述したとおり、ニュースはそのことにさほど関心のない人を集めるための工夫をするが、そうではなく、意思や意図を持って能動的に検索した人に対してきちんと応えるメディアである。

ニュース読者のような野次馬ではなく、強い関心を持った人たちだけが集まるドロドロに濃いメディアの作り方という道もあるということだ。そのようなサイトでは、ニュースサイトのようにバズらせてPVを集めたい誘惑に抗う必要がある。自社サイトへの送客などを考えればカネ払いのよくない客に来てもらっても無駄、「バズったら負け」ということになる。

ここにメディア人のスキルアップを絡めると、組織における経営やマーケティングなどの課題を解決するためにメディアをどう使っていくかというスタンスでスキルを活かす道もあるともいえる。

バズるだけでは解決できない問題がある。企業のオウンドメディアでは、PVとコンバージョンの両輪で運営していくことになることが多いが、ネットメディアの編集者としても両刀を使えることがスキルの幅を広げることになるだろう。

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「編集」というスキルを他の分野で活かす

ネットメディアで働く人は、いまメディアに関わっていない人を外から取り込みながら、組織を活性化していくことも大事なんじゃないか……。続きはぜひ実際に聴いてみてください。

voicy.jp2020/02/17